イップス

【送球イップス】「投げる感覚がないです…」という選手が克服するまで

 

 

今回は、実際にイップスを克服し活躍する選手の話をしていきたいと思います。

 

僕は現在、横浜にあるイップス研究所でイップスに悩み相談に来られる方のケアを行なっています。

 

研究所には年齢、性別、取り組むスポーツなどが様々で、幅広い方が来られます。

野球、テニス、卓球、ゴルフなどメジャーなスポーツはもちろん、スポーツ以外でも、美容師さん、作家さん、書道の先生などがイップスの相談に来られます。

 

最近でも、書道の先生が書痙(文字を書くときに手が震えて書けなくなる)を改善することができ、実際に書いた文字を自慢げに持ってこられる姿を見て、喜ばしく感じました。

柏直樹
柏直樹
とても上手な字でした!

 

僕自身も現役時代に苦しみ悩んだイップスですが、このように克服し、活躍する選手はたくさんいます。

 

イップスを克服した選手がどうやって克服したか、克服していく過程で何が変わったかなど、今後も伝えていく中で、現在悩まれている人の力になれればと思います。

 

その中で、今回は、野球の送球イップスに悩んでいた選手が克服していった過程をお伝えしていきたいと思います。

【実体験】イップス克服までの道のりを経験談から語る【6つのポイント】 今回はこのような疑問をもつ、現在イップスで悩まれている人に向けた内容です。 僕は現在、横浜にあるイップス研究所でイップスに...

 

「投げる感覚がありません

相談に来られたのは、19歳の大学生、Aくん

関東の大学で硬式野球部に所属しています。

Aくん
Aくん
投げる感覚がありません…

 

選手の特徴

  • ポジションはセカンド。
  • 大学は人数が多く、2年生のAくんは主力ではない。
  • 高校ではキャプテンをやっていた
  • 性格は普段は明るくハキハキとしている感じ
  • 高1の頃、先輩へのバッティングピッチャーをきっかけにイップスになった
  • その後は自信がなくなり、おとなしくなってしまった
  • なんとか投げられるようになって、レギュラーでなくても実力を出して終わりたい

 

イップスの症状

  • 投げている感覚がない
  • 投げ方がわからなくなった
  • セカンドから1塁に投げれない
  • 特に近い距離が投げられず引っかけたり、抜けたりいつも暴投してしまう

イップストレーナー
イップストレーナー
野球選手に多いイップスですね!

イップスを克服するまで

精神的な要因

本来は、高校でもキャプテンをやっていたり、明るく積極的な性格から、どちらかというとみんなの中心にいるタイプだったAくん。

周囲をイジったり、ワイワイするのが好きだったとのこと。

 

それがイップスをきっかけに「自分が投げれないのに人に言っていいのかな」と感じてしまうようになり、消極的になり自分を塞ぎ込んでしまったようです。

昔の僕
昔の僕
自分なんかが…って思っちゃう気持ちはわかります…

 

さらにカウンセリングの中で、

  • みんなに認めてもらいたい
  • 周囲と比べてしまい自信をなくす(劣等感)
  • 〜べき、〜してはいけないという思考
  • 周囲への遠慮、言いたいこと(本音)が言えない

などがわかりました。

 

みんなに認めてもらいたい

例えば、周囲の人に認めてもらいたいという気持ちは誰もが持つものですが、あまり強すぎると、焦りから不安や緊張につながる場合があります。

どれだけ自分のプレーが良くても認めてもらえなければ意味がないと捉えてしまったり、失敗して責められることへの恐怖心へと繋がることがあります。

 

Aくん
Aくん
たしかに、野球以外の部分でも、人にどう思われるかが気になってしまいます…
柏直樹
柏直樹
投げることや暴投してしまうことよりも、「周りの人にどう思われてしまうか」という部分に無意識に不安や恐怖を感じていたのかもしれないね。

 

「〜べき」、「〜してはいけない」という思考

また、

  • 結果を出していない人は前に出るべきではない
  • 下手な人は意見を言ってはいけない

などの「〜するべき」、「〜してはいけない」などの観念も強い傾向にありました。

 

ここについて、カウンセリングの中で深く聞いていきました。

 

柏直樹
柏直樹
どうしてそう思うようになったの?
Aくん
Aくん
だって、結果が出てないのにでしゃばったら、「何言ってんだこいつ、下手なくせに」って思いませんか?
柏直樹
柏直樹
それはAくんが下手な人に対して、無意識にそう思ってるってことじゃないかな?
Aくん
Aくん
あ…
柏直樹
柏直樹
他の人は別にそうは思ってないかもしれないよ!

 

Aくん
Aくん
あと、そういえば…
柏直樹
柏直樹
何か思い当たることがあるのかな?
Aくん
Aくん
小学校の頃の監督が「〜しなさい」「〜じゃないとダメだ」って感じの厳しいタイプの監督で…その頃は野球が楽しくありませんでした…
柏直樹
柏直樹
もしかしたらその頃の恐怖心や、「〜するべき」「〜しなければいけない」という考え方が強く残っているのかもしれないね。

 

これらは全て本人にとっては無意識なので、自分の本心に気づき、捉え方が少しずつ変わると、周囲との関係性も変わり、今よりも自分を出しやすい環境(失敗しやすい、本来の力を出しやすい環境)になるのではないかと思います。

 

周囲への遠慮、言いたいこと(本音)が言えない

また、

  • 「本当は〇〇したいけど…やめておこう」
  • 「本当は〇〇だけど…しなきゃいけない」

という遠慮や我慢をするのが習慣化すると当たり前となり、自分が我慢していることにすら気づけなくなってしまいます。

 

そしてそれが積み重なるとストレスとなり、身体へも影響を与えるようになります。

 

運動動作を学習し記憶する(自転車にだんだん乗れるようになり、意識しなくても乗れるようになるなど)のは脳の小脳という部位の働きによるものです。

この小脳はパニック、抑うつ、悲しみ、恐怖という感情によって活動が変化することがわかっています。

つまり、不安や恐怖などの感情やストレスを我慢し続けることによって運動動作への影響が及ぶこともあるのです。

 

Aくん
Aくん
自分の感情を抑えていることに気づきませんでした…
柏直樹
柏直樹
本来の自分を取り戻しましょう!

 

技術的な要因

自分に合わない動作

今まで指導者に指導されたことや自分自身の中で「上から投げる」という意識が強かったそうです。

ここでも「〜べき」という考え方が影響していました。

Aくん
Aくん
指導者から言われることを素直に受け入れていました…

 

そんな中、自然な投げ方を取り戻すトレーニングの中で、感覚を取り戻した様子。

 

Aくん
Aくん
「上から投げる」というのが当たり前だと思っていましたが、トレーニングの中で、自然に投げやすいのがイメージよりも横からだということに気づきました!
イップストレーナー
イップストレーナー
内野手でセカンドだし、その方がいいかもね!プロの内野手も意外と横から投げてるよ!

 

 

ちなみに

 

イップスは「状況×感情×動作」という中での条件反射で起きるものと考えられています。

 

例えば、

以前に失敗した場面など(状況)で不安(感情)を感じている中で投げようとする(動作)

→脳が身体に指令(止める、緩める、固まるなど)を出してしまう

 

そしてそれが何度も何度も繰り返されると投げるという動作を行うだけで止まったり、力んだり、固まってしまったりします。

 

ただ、この動作を条件反射が起きてしまう動作と別な神経を使った動作に変える(サイドスローにする、ゴルフのパターで打ち方を変えるなど)ことによって症状が改善されたケースも多くあります。

 

また、よく野球ではコンバート(ポジションを変える)をすることでイップスを克服したケースもありますが、それは動作ではなく、状況や感情に変化があったからだと考えられます。

 

克服とその後

 

もともとは先輩へのバッティングピッチャーという精神的な要因からでしたが、そこから無意識で行っていた動作を考えすぎたり、意識的にするようになり感覚がおかしくなってしまいました。

 

しかし、Aくんの場合は、

  • 技術的な部分で感覚を掴み自信を取り戻せたこと
  • 不安や恐怖を感じてしまう無意識の自分の感情に気づけたこと

などによって克服できました。

 

Aくんの場合は、イメージと実際の動きのギャップがあったりなど、技術的な部分にも多少の要因があったので、このようなタイプのイップスはそこまで難しくはありません。

 

これが、

  • 練習では問題ないにも関わらず大事な場面だけ感覚がなくなる
  • 痙攣(けいれん)や動作が止まるなどの意図しない動作がでる

などの場合だと、また少し違うアプローチが必要になってきます。

 

柏直樹
柏直樹
技術的に改善できるのは、イップスではありますが深刻なイップスではないというのが僕の考えです!

 

もちろん本人がそれまで身につけてきた考え方や動作があるので、多少の時間は必要ですが、正しいケアをすれば克服していくことができます。

 

個人的には先輩へのバッティングピッチャーをまたやった時にどうかというところも大切だとは思いますが、克服はあくまで本人の感覚にもよります。

 

Aくん
Aくん
前とは全然違います!投げれると野球が楽しいです!

 

と本人が言っていて、見た目としても問題なく、その後に来所された時も、試合にも出場できるようになり調子がいいとのことなので、克服したと言っていいでしょう。

 

まとめ
  1. 原因がどこかを自分で見つけることは難しいので人に頼ることは大切
  2. 自分の無意識の感情に向き合うことが大切
  3. 技術的な部分で改善できる場合もある
  4. 技術的な要因がない場合には無意識の感情や脳の仕組みに要因がある可能性がある
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